恒常的残業リスク高まる【社説】

東京地裁は、アクサ生命保険事件(令2・6・10判決)で、労働者に月40時間程度の残業を行わせていた使用者を安全配慮義務違反と認定し慰謝料支払いを命じた。訴えた労働者は、うつ病など具体的疾患を発症していない。
これまで、脳・心疾患などが現実として発症し、原因となった過重労働に対する安全配慮義務違反が問われるケースが一般的だったが、様相が明らかに変化している。具体的疾患とは関係なく一定条件下での長時間労働そのものを安全配慮義務違反などと認定する傾向が強まっている。企業としては、細心の注意をもって長時間労働抑制に努める必要が生じている。
アクサ生命保険事件では、営業幹部社員に月30~50時間程度の残業を1年超行わせていたことが問われた。東京地裁は、労働者に心身の不調を来す恐れがある長時間残業を行わせたとして、安全配慮義務違反と認定した。
厚生労働省では、残業時間が月100時間または複数月平均80時間を超える場合を過労死ラインとしている。それ以下では、おおむね月45時間を超えて長くなる場合には、業務と脳・心疾患との関連性が徐々に強まるとしている。
昨年10月の長崎地裁判決では、労働者の退職前2年間の残業がおおむね月100時間を超え、最長で160時間を超える月があったという事案に対し、「人格的利益の侵害」で不法行為を構成すると判断、慰謝料30万円の支払いを命じた。やはり、労働者に具体的疾患は発症していなかったが、心身の不調を来す危険のある長時間労働に従事させたことが問われている。
平成28年にも東京地裁が同種判決を下していた。1年余にわたりおおむね月80時間またはそれ以上の残業を行わせたことに対し、労働者を心身の不調を来す危険のある長時間労働に就かせたとして慰謝料が認められた。
過労死ラインに達せず、具体的疾患が発症しなくても、脳・心疾患と業務との関連性が徐々に高まるという月45時間程度の残業を恒常的に行わせていると、労務管理上のリスクが高まると考えて良い。

近年時間外労働に対する世間の目がますます厳しくなってきている。

本来従業員に時間外労働(1日8時間、週40時間を超える労働)をさせるために締結が必要な「36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)」は、原則的上限はあったものの(月45時間、年360時間以内)、「特別条項」を付ける事によって年に6月までは上限なく働く(働かせる)事が可能であった。

そこに歯止めをかけたのが2019年4月(中小企業は2020年4月)に施行された「上限規制」である。

原則的上限についての変更はないが、「特別条項」にも上限を設け(月100時間未満(+複数月平均80時間未満)、年720時間以内)、罰則による強制力を持たせた。

ただ、厚生労働省がこの上限時間である「月100時間または複数月平均80時間」を超える場合を、いわゆる「過労死ライン」と定義しているものの、今回の判例では「月40時間程度の残業で安全配慮義務違反」と認定されたのである。

この数字にはやや驚かされた。

働き方改革が浸透しつつある現在でもこの程度の残業時間はまだまだ目にする機会もあり、過労死ラインにも程遠い時間のように思える。

更に訴えた労働者は、うつ病など具体的疾患も発症していないとの事。

今後このようなケースが増えてくるとなると、企業側としても大きな変革が必要となってくる。

この時期、テレワーク導入や時短勤務など一時的でも取り入れた企業も多くあり、少なからず働き方に対して多角的に見る機会があったかと思う。

これを機に気付かされた不要な業務や時間は削減し、時代錯誤な風習は見直し、更なる無駄を省いていくべくあらゆる面を見直すいい機会なのかもしれない。

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